■ER−PSX
いつ聴いてもいい演奏。録音も綺麗。不満なし。
■ER−PSEX
この演奏は満を持して試聴用に起用したものです。もともとPSXの音質はクラシック再生においてはじめに書いたような独特の長所を発揮していたため、演奏も録音も良いものでないとPSEXの長所がわかりにくいかもしれない、と思ったので、今まで試聴に重宝していたCDを全て見直して新たに選んだのが今回の3枚です。
その中でもこの演奏は倍音が豊かだといわれるピアノの独奏ものだけに、ひょっとしたら、単に高域が、低域が、定位が、などという要素以外に何かわかるかもしれないと思いました。
ある帯域や定位、音像、音場などの要素が良いと言ったところで、それが音楽鑑賞の際、PSX以上に音楽の感動や楽しさとして私に訴えかけてくることにつながらなければ、PSEXで聴く意味はありませんから。
2.に負けないくらい、これは衝撃の試聴になりました。
1曲目から2曲目にかけて、春風が大濠公園の池の水面を吹きぬけるようなさわやかな流れ、軽いピアノのタッチと美しい響きを聴くことができます。
PSXの場合、このCDでは極め付けの高いS/N感をベースにして普通に良い演奏、良い音質を楽しむことができますが、PSEXの場合、明らかにPSXでは感じなかったものをはっきりと感じます。それは、シフがいかに絶妙の指さばき(素人の私がこういう表現をするのはおかしいのですが、そう感じたのでそのまま書きます)を見せているのか、目に見えるような感覚なのです。鍵盤を叩く、触れる、その微妙な強弱が丸見えになっているような。
ハンマーが弦を叩いて音になり、そこから美しい響きが立ち昇る(大袈裟な表現ですが、これもそう感じたのでそのまま書きます)、その連なりが音楽となって流れ出す、シフがささやかな、そして絶妙の装飾を与えて次々と紡ぎ出した音の周囲には美しいオーラが煌いていて、一瞬光っては消えていく、そんな感じです。PSXではここまでの表現力はありませんでした。名演奏には違いないと思いますが、オーディオならではの、凄い録音ですね。
よく私(たち)は倍音がどうだとか響きがどうだとか音が厚いとか薄いとか定位がどうだとか低域がどうだとかエネルギー感がどうだとかS/N感がどうだとか音場がどうだとか言いますが、PSEXの表現力は間違いなく、その次元での視点では説明できない、音楽の本質に迫る大事なものを提示してくれている、そのことを確信しました。
これは自信があります。あまりに驚いたので、2回、繰り返してPSXとPSEXを交換して聴き直しましたから。
私はPSXの良さをよくわかっているつもりです。今使用しているスピーカーも、ぼけた音は出さないし、録音には敏感でモニターとしても優秀、プラグやケーブルの特長もよく出すし、ついでに言うと響きも豊かです。もちろんPSXにも鋭く反応しました。PSXには充分満足していました。なのに、PSXの再生がこれほど物足りなく感じるとは。程度としては微妙な差なのですけど、決定的に違う次元の音楽表現を感じました。
正直に言うと、私は、自分の今のシステムではこういう絶妙な表現を引き出すには単体の、100万円以上もするようなD/Aコンバーターでも導入しないことには無理だと考えていました。ケーブルにしても多少の工夫はしていますがハイエンドといわれるような価格の製品でかためているわけでもありませんし。
でも実際に、専門誌などで目にする「官能の・・・」といった調子の宣伝文句そのままという音楽を、自分の未完の、発展途上のシステムで聴いてしまいました。
私はこの試聴レポートのために、Eau Rougeをよいしょするためにわざわざ大袈裟な文章を練るほど暇人ではありません。好きな趣味の世界で心地よい快感に浸れたから、ちょっと嬉しいだけです。 |